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ても、対応すべき課題が異なってくるし、コンビナートや石油基地、原子力発電所などの立地によっても異なってくる。
しかし、その対象が変わり、その対応の方法が変わっても、地域で起こる都市災害と呼ばれる大きな危険に対して、地域の危機管理者として、危機管理者の目を持って地域社会を監視して行く役割を消防が持っていることに変わりはない。今回は一九六二年に都市防災の研究を与えられて、今日まで体験してきたことを通じて、これからの消防に必要なことは何かについて私の考えを述べたい。

 

(二)都市と消防のかかわり
都市大火が頻繁と起こっていた頃の消防の役割は明解で、火消しとしての消防であり、都市大火の危険を減少させるために都市の潜在的危険を発見するために、まちを査察して歩くことが仕事であった。その結果、自分のまちの危険を熟知した消防官が育っていた。
しかし日常的都市大火が少なくなると、消防が関係している一般業務として、消火栓のチェックや防火貯水槽の点検という設備の点検は行なうが、まちの潜在的危険の発見という仕事は、日常的には意味がなくなり、結果としてまちの危険を発見する能力も失われて来つつある。
今の消防は、建築の火災予防のための仕事と、交通事故などの人命数助の救急活動が主力となり、かつて部市大火という都市災害を相手にしていた、消防の都市的役割があいまいになって来ている。
現在、どの自治体にも防災課とか災害対策課などが設けられているが、実動部隊を持っているのは警察と消防であり、都市災害が起こった時の消防の役割りは重要である。
都市大火が主流の時代なら、消防独自の立場で市街地の危険を分析して行げば、当時の都市災害である市街地火災に対応する知恵は持ち得たが、今日のように都市大火の起きる機会も少なく、都市災害の内容も変わって来ている時代に対応するためには、都市の持つ潜在的危険を巾広く発見して行ける能力とシステム的方法論が必要になってくる。
現在、消防は予防行政や危険物の指導・認可という立場から、都市の潜在的危険施設や物質のかなりの部分を把握しているわけで、それらの空間的意味づけを知ることによって新しい都市災害に対応する知恵とすることができるのではなかろうか。しかし、かつての都市大火のように、頻繁と起こり、仲間の消防官と知識の交換が可能であった場合であれば、現実の災害の体験の中からそれらの対応の知恵は蓄積されて行くが、新しい都市災害の場合、日常的に発生する確率が低いなかで、仲間同志の知識の交換も出来ず、対策の知恵を生み出すことは、なかなか難しい。

 

(三)都市安全管理システム
一九六二年に都市計画の研究室に入って最初にお手伝いしたのは、生活環境の総合的指標化の調査研究で、東京の代表的な八地区を選び、安全性、健康性、利便性、快適性の四つの指標に関連するデータを選び出し、因子分析などを行ないながら八地区を比較する作業を手伝った。その時、都市空間を数値化して比較するわけであるが、総合評価をすることの難しきを感じた。防災を専門に研究するように言われていたこともあって、安全に関する指標だけを取り出して、しばらく研究を進めた方が、都市の実感と指標の関係が理解できるのではないかと考え、都市内のあらゆる施設の清在的危険について係数化することを試みた。
そのためには、ある施設が何かの災害のとき、その周辺環境にどのような影響を与えたかについて理解する必要があり、その施設で過去にどのような事故があったか、また地震災害の時には発生確率が上がる筈だが、過去の事故事例は無いかなど、事故事例に関連した情報を少しづつ集め始めた。しかし、過去の地震の被害調査を見ていると、人口が何万人で、世帯数がいくらの都市で、地震の時何軒の風呂屋から出火したとか、研究所から何件火が出たということは分かったが、その地方に何軒の風呂屋があって、そのうち何軒火災になったのか、類似の研究所が何箇所あってそのうち何件火災になったのか分からなかった。即ち都市におけるその施設の全体数が分からないし、同じような地盤条件にあった施設数も分からなかった。
都市空間の安全管理を行うためには、危険施設の全体の数だけでなく、どのような地域にどれだけ存在していて、そのうちどれとどれが災害に結びついて行ったかを知る必要があった。そのためには、都市の現況を地図上

 

 

 

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